脾摘後の管理で注意すべきポイントについて

脾臓摘出後の管理

近年は脾臓保存手術が増加し,特に外傷例では以前ほど脾臓摘出を行わなくなったという話を聞きます.しかし依然として脾臓摘出が必要とされる症例があること,また脾臓摘出後の管理について学ぶことは患者の健康と安全を確保し,合併症リスクを最小限に抑えるために必要不可欠であることから,簡単にまとめてみたいと思います.

Question

まずは次の問題を解いてみましょう.

明らかな正解が1つと,曖昧な選択肢が2つ.その他には選択肢⑤が光っていますね.問題の解答へ行く前に,まずは脾臓の機能についておさらいしてみます.
(勉強会ではこのスライド時に機動戦士ガンダム 第42話の画像を供覧しました.)

脾臓

脾臓の機能おさらい

脾臓は大きく白脾臓と赤脾臓の2つに分けられます.

  • 白脾臓(White Pulp)
    • 主に免疫系に関与(脾臓は人体最大のリンパ器官)
    • 白血球やリンパ球が集まる場所であり,特に莢膜に対して有効なIgMは白脾臓で産生される
  • 赤脾臓(Red Pulp)
    • 血液をろ過し,老廃物や古い赤血球を除去する
    • 血液を貯蔵する機能もある

脾臓は人体最大のリンパ器官であると同時に,血球(特に赤血球)を造り・蓄え・壊す働きをもちます.

莢膜多糖体をもつ病原体に対する免疫

病原体が脾臓を通過すると,脾臓に蓄えられたBリンパ球が刺激され,抗原をオプソニン化する抗体(IgM)が産生されます.脾臓はこの機能により,肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,髄膜炎菌などの莢膜多糖体をもつ病原体のクリアランスにおいて,特に重要な役割を果たします.

代表的な莢膜多糖体をもつ病原体の語呂合わせとして,次のようなものがあります.

莢膜多糖体をもつ病原体は免疫の回避や耐性の増加,バイオフィルム形成などの機序により通常よりも強力な病原性をもつため,その感染症の治療や予防には特別な注意が必要となります.

管理のポイント

感染症の重症化リスク増加

脾臓摘出後の感染症の死亡率は50~70%と高く,その大半が肺炎球菌によるものであり,24時間以内の劇症の経過で死亡します.また,脾臓摘出後2年間が最も感染症リスクが高いとされています.

このことから,発熱時はすぐに病院受診するよう患者に説明しておくことが重要となります.

ワクチン接種の推奨

前述のように病原体,特に莢膜多糖体をもつものに対して免疫能が低下するため,対象となる病原体のワクチン接種を行います.

  1. 肺炎球菌
    • PCV13とPPSV23の2種類を接種
      • PCV13をまず接種し,8週間以上あけてPPSV23を接種
      • 肺炎球菌感染症の既往があっても接種
  2. Hibワクチン
    • 5歳以上の場合はHibに対する抗体があるためワクチンの有用性は低いが,1回接種が推奨
  3. 髄膜炎菌ワクチン
    • 4価結合型ワクチンを接種

その他では,インフルエンザの不活化ワクチンを毎年接種することが推奨されます.生ワクチンの接種に関しては禁忌とはされませんが,慎重に投与する必要があります.

予防的/早期の抗菌薬投与

小児と高度免疫不全者では,予防的に抗菌薬を毎日飲んでもらいます(議論あり).また,24時間以内の劇症の経過をとることも多いことから,発熱時には事前に処方した内服抗菌薬を飲んでから病院受診してもらうよう指導します.

Answer

最初の問題の正解は「④熱が出たらすぐに病院に来るようにしてください」でした.

抗菌薬の生涯内服や生ワクチンの接種禁止に関しては,全例ではないという点でこの問題では正解選択肢となっていませんが,いずれも場合によっては考慮する必要があります.

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